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□ 創作小説 □

今まで書いてきたもの【世界の終わりの海辺にて】

こんにちは。

この頃は、この間買って来た本を読むだけの日々です。アニメなどをあまり見なくなってきました。理由は判然としませんが、自分のペースでできるものを優先してやるようになったのかもしれません。本を読むというのは、アニメを見るよりも時間に拘束されないもののように思います。
おとといは志賀直哉の短編集を読み、昨日は養老孟子の「からだの見方」を読みました。どちらも文庫本なのでそれほどボリュームがあるわけではありませんが、養老孟子「からだの見方」はどうにも難解で……というのも内容が解剖学や人体の仕組み等についてだったので、完璧に文系の私としては書いてあることを理解するのに時間がかかったということなのですが……とにかく、時間はかかりましたが頑張って読みきりました。

今日は中島敦の「山月記・李陵」を読んでいます。
志賀直哉も好きですが、中島敦も好きです。ただ、あまり何度も繰り返して読んだりはしていないので、これまた新鮮な気持で読んでいます(笑)。

そういえば、今日ノベリストの方を見ましたら「人気作家ランキング」の9位にランクインしておりました。10位以内に入ったのは、ノベリストに投稿し始めて以来の快挙です。ノベリスト自体が過疎化しているという話も聞きますが、読んでくださった方がいるということは確かなので、読んでくださった方には心から感謝しています。どうもありがとうございます。
※投稿サイト「ノベリスト」へは、本ブログのリンクから飛べるようになっています。

さて、今日は短編「世界の終わりの海辺にて」をあげたいと思います。
この短編はノベリストにアップしたのが2010年の8月となっているので、それより以前に書いたもののはずです。もう3年も前になりますね。3年前というと、私がまだ十代だった頃ですね……若い……(´ω`)
この短編は、自分という存在は誰かが見ている夢の中の存在でしかないのではないか、という、まあ、よくあるマトリックス的な(?)テーマの下に書かれたものです。自分も含めた、この世界に生きている全ての動植物は、誰かが夢見ているだけのものである――これは恐怖でもあり、また、なんとなく面白い考えのように思います。
そういえばこの短編は、これと同時期に書いた「新世界」と共に、初めて部誌に掲載した作品でもあります。「新世界」に関しては次の更新であげたいと考えています。

それでは前置きが長くなりましたが、短編「世界の終わりの海辺にて」です。
通常ブログ画面の方は追記から、それ以外の方はそのままスクロールして、どうぞご覧ください。

世界の終わりの海辺にて

 君が君であるために唯一の何かが欲しい?
 それは実に不可解な要求だ、何故なら君はこの世界自身であり、君自体が一つの、唯一にして全なるものなのだからね。
 これが夢だと思うかい。
 眼が覚めれば消えてしまうような、そういう夢だと、君は思うのかい。
 それでも君は君自身だ。君は唯一にして全、神と同義の存在なんだ。世界のすべては、君なんだ。
 分かるかい。
 世界は、君でできているんだよ。
 世界は、君でできているんだ。

「アイデンティティの崩壊の危機」
 彼女は、そっと呟いた。
「え? なに?」
 僕は、聞き返す。
「アイデンティティの崩壊の危機」
「それを言うなら、拡散の危機じゃないのか」
「そうとも言う」
 少女。
 彼女は、そう呼んでも一向差し支えないような年齢だ。少なくとも、僕にとっては。
「それが、どうかしたのかい」
 僕が聞いても、彼女は言葉を返してはくれなかった。ただじっと、僕らの座る海辺から見える範囲の全てを、その眼に収めていた。
「少女はただ海辺に佇む、か」
「訂正が必要だよ。少女と少年、その他大勢の人々はただ、海辺に佇む、でしょう」
 少女は僕の言葉尻を捕らえて、そう言った。にこりともしない、少女。
 陽光に、彼女の決して長いとは言い切れない黒髪がなびいた。潮風が海の匂いを、遠く離れた街のどこか腐りきったような匂いのする場所へ、律儀に運んでいく。かもめはその後を滑空してついていく。波が、風と入れ違いに、僕らの足元へ貝殻を置いていく。
「世界は、何でできているんだろう」
 彼女は、今度ははっきりと呟いた。
「さあ、……原始と分子と、その他色々な構成要素でできているんじゃないのかな」
 僕は潮風のように律儀に答える。しかし、少女からの返答は無い。
「それとも君はそう思わないの?」
 僕は聞いてみる。やはり、返答はなかった。
「自分が本当に自分であるという証拠は、どこにあるのかな」
 彼女は、またそう呟いた。
「さあ、ね。そんなこと、知ってる人、いるのかな」
「じゃあ、君は如何思う?」
「僕かい」
 僕は不意に、心の中のどこかにある海が渦を巻いて、地中深く吸い込まれていくような気がした。その渦の中で、僕と少女はもがいていた。その足掻きは何の進展ももたらさないし、何の停滞ももたらさない。ただ、吸い込まれていく。
 僕は地中で、声を出さないで泣いている。少女の姿が見つからなくて、泣いているのだ。
「どうしたの?」
 少女が、気遣わしそうに僕の顔を覗き込んでいる。一瞬の白昼夢から抜け出して、僕は微笑んだ。
「どうもしないよ」
 世界の終わりの海辺。
 そこに佇む、僕と彼女と、その他大勢の人々。皆、何を求めているのだろう。
「僕は、僕が僕自身であると、知っている。だから、それを疑わないようにしているだけだよ」
「いつ、君はそのことを知ったの?」
「生まれたときに」
 誕生は消滅の始まり。
 人は海から生まれ、海に還るんだ。大地に埋められても、流れ流れて海へ行き着く。それを分かっているから、人は海を畏れ、敬い、慕う。
 だから、海辺はいつでも、世界の終わり。
「僕は、生まれたときから、此処を知っていたよ」
「私も、きっと、知っていたんだと思う」
 少女は微かに肯いた。
「私は、きっと、私自身なんだろうね」
 世界が終わる、その瞬間が近づく。海辺は決して変わらずに、僕らの身体を待っている。僕らは目まぐるしく自身のあり方を変更しながら、海に還る時を待っている。決して交わらない生と死が、初めて、そして最後に交じり合うその場所へ、還る時を待っている。
「私も、他の人も、勿論君だって、世界が終わる時を知らないんだ」
「そうだね」
「ここが世界の終わりだって事は分かってるのにね」
「そうだね」
 世界は、いつか終わる。
 でも、どこからが終わりで、どこからが始まりなんだろう。海から全てが始まって、海で全てが終わるのなら。
 意識の混濁のよう。
 今は夢なのか。現実なのか。
「夢の終わりは、一つの世界の消滅だよね」
 少女はそう言った。立ち上がる気配はない。
「ねえ」
 そして、立ち上がった僕を、眩しそうに見上げた。
「この世界は、誰かの夢なのかな」
 僕は、自分の中に、その問いに対する答えが用意されていないことに気づく。地中深くに佇む僕は、少女の歌声を聞いている。
 海のように深遠で、海のように鮮やかで。海のように真っ青で、海のように厳しい、そういう歌声を頼りに、彼女を探している僕。
 他に誰もいないんだ。僕と、少女の他には、誰も。
「この世界は、きっともうすぐ終わるよ」
 僕は、ようやくそれだけ言った。
「この世界を夢見ている誰かが、そろそろ眼を覚ますんだ」
 少女は、僕の言葉に、微かな身じろぎで反応を示した。
 海辺は静かだ。僕と、少女と、その他大勢の人々が、ただ、ただただただ、凪いだ水面を、じっと見つめている。世界中の人々が、ただただ静かに、その時を待っている。
「ねえ」
 少女は立ち上がって、僕に問う。
「この夢は、一体誰のもの?」
 僕は彼女に微笑んで、そっとその手を握る。
「ここに集まった、すべての人のものさ」
 少女は無言で、まばたきをした。そして、ふっと微笑んだ。
 地中深くで、僕は彼女を抱き寄せる。

 そうして、一つの世界が、消滅した。
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