teiの庭

□ スポンサー広告 □

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

*    *    *

Information

□ 創作小説 □

今まで書いてきたもの6【金魚草子(三)】

こんにちは。

昨日の更新で宣言したとおり、これから小説のアップを主に更新していきたいと思います。
その手始めということで、今日は、まだアップしていなかった短編「金魚草子(三)」をアップします。これは、以前の記事を見ていただいても分かることですが、三連作として書いたものの最終章にあたる短編です。
※既に他の投稿サイトなどにもアップしています。投稿サイトへは、本ブログのリンクから飛べるようになっています。

「金魚草子(一)」では金魚が空を飛ぶという空想をする津々良(つづら)という少年を主人公に据えています。「金魚草子(二)」では、津々良の担任教師である大場数彦という男性を主人公に据えました。
では今回は、ということで……三者三様の、「空飛ぶ金魚」についての物語です。

短編連作という形式ですのでこの短編だけでも読む事はできますが、もしも興味がありましたら、以前の記事から、(一)(二)をお読みいただけます。

それでは「金魚草子(三)」です。通常ブログ画面の方は追記から、それ以外の方はそのままスクロールしてお読みくださいませ。

金魚草子(三)

 早月(さづき)香苗は、ため息をひとつついてから、受話器を置いた。職員室に備え付けられたその電話は、今の彼女の気持ちを表現するかのように灰色をしている。
「早月先生、どうなすったんです?」
「いえ、何でもないです……ちょっと疲れただけで」
 香苗が首を動かすと、こき、と音が立つ。話しかけてきた教師は苦笑いをして、お疲れ様です、と頭を下げた。まだ若い、男性の教師だ。名前は何といったかな、と香苗は考える。彼は今年の四月に入ってきたばかりで、古株の多いこの職場では浮いていた。香苗もまだ若かったが、彼と比べればキャリアがある。
「ええっと、……先生はもう担任をなさってたんでしたっけ」
 名前の思い出せない彼に、香苗は話を振る。振られた側は、素直に肯いて、「三組です」、と答えた。そしてそのすぐ後に、「四年の」、と付け足す。
「四年三組、ですか。どうです調子は……。新任なのにクラスを持たされるなんて、大変でしょう」
 香苗は、自分の新任時代を思い出し、そう言った。確かあの頃はまだ、年配の先生方から学ぶばかりで、ちっとも生徒たちのことを考えている余裕がなかったはずだ。
 しかし四年三組の担任は、にこやかに答える。
「ええ、大変ですが、でも生徒たちの笑顔を見られるのは何よりの幸せですよ」
「そう……、それならいいけど」
 香苗は肯きながら、自分の席に座る。四年三組の担任は、それじゃあ俺はこれで、と立ち去ってしまった。
「四年三組――ああ、大場数彦先生ね」
 手にしたプリントで確認し、香苗は少しの間目を閉じた。目蓋の裏に残った光と影が作り出す複雑な模様を吟味し、彼女は再び目を開ける。
「……金魚、か」
 一人呟いて、香苗は首を鳴らした。


「香苗先生ー」
 放課後、香苗の担当する一年二組の生徒たちの大半は、まだ教室に残ってなにやら騒いでいる。その中で一人だけ、車椅子の生徒が、香苗に向かって手を振った。
「どうしたの、つづら君」
 香苗が傍によっていくと、津々良は机の上の画用紙を指差した。真っ白い画用紙を上から青く塗りつぶしてあり、その上には白い雲らしきものと、赤やオレンジの何かが描かれている。
――ああ、と香苗は息を呑む。また、その話なのか。
「先生、ほら僕、絵描いたんだよ」
「へえ、上手に描けたわねえ……。これは、いつもの金魚なのかな?」
「うん!」
 津々良は嬉しそうに、クレヨンを手にしながら笑った。香苗も笑うが、その笑顔がひきつっていない自信はなかった。


「あ、津々良君のお母さんですか? 今晩は、津々良君のクラスの担任の早月香苗です」
 香苗は、自宅に帰る前にも、再度津々良の家に電話をかけていた。職員室には、もう教頭先生と学年の主任しか残っては居ない。
「ええ、そうなんです。また、金魚が空を飛んでいる絵で――……。ええ、勿論否定なんてしていません。していませんが、でもこう何度も同じ空想ばかりしていては、……いいえ、迷惑なんてとんでもありません。私はただ、津々良君のことが心配で……」
 電話越しの津々良の母の声は若々しく、また澄み切っていた。彼女は、香苗と違って津々良の空想について何の心配もしていないようだ。それが香苗にとっては信じがたく、また苦々しくもあった。
「はい、ええお願いします。いえいえ、こちらこそ。では、何度もお電話してすみませんでした、――はい。では……」
 受話器を置いた香苗に、学年主任が不審そうな目を向けてくる。香苗はさっさと礼をして、職員室を後にした。
 学校を出ると、五月の風が香苗の髪を撫でていく。彼女はぼんやりとしたまま、家路を歩き出した。

 ああ、そういえば、こんな暖かい日のことだったっけ。

 よく晴れた空を仰いで、香苗は足を止める。思い出すのはあの日のこと。目に浮かぶのは、津々良の絵。青い空をバックに、金魚と雲が戯れる。

 ああ、金魚……。

 香苗は再び歩き出す。自分がどうしてこんなに津々良の絵が気になるのか、ようやく分かった気がしていた。
 あれは二十年ほど前、夏祭りからの帰り道だった。金魚すくいで香苗が貰った金魚の袋を持って、母親が彼女の前を歩いていた。

 そうだわ、それで。それでお母さんは、私の目の前で、……居なくなってしまったんだわ。

 青い空が良く見える、見晴らしの良い道路だった――。車の急ブレーキの音とともに、母親の体と金魚の入った袋は宙に放り出された。
 金魚は、青い空に向かって飛んだ。ゆるく開いていた袋から、初めて世界へ飛び出した。青い空を、自分の力ではないにせよ。

 金魚が、飛んだのだ。

「本当に、……金魚が空を飛ぶことって、あり得るものね」
 香苗は呟いて、――力なく微笑んだ。
スポンサーサイト

*    *    *

Information

Date:2013/01/20
Trackback:0
Comment:0
UserTag: 創作  短編小説  ノベリスト  *  金魚  教師 
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://erikusatei.blog9.fc2.com/tb.php/511-5f86589c
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。