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□ 創作小説 □

就活……+短編・凪

こんばんは。今日は一つ、リンクを追加させていただきました。朔楽さんのサイトへのリンクです。朔楽さん、有難う御座います(´∀`*)
というわけで、せっかくですので、更新をば。

えー。
今日から就職活動が本格化するそうです。何を隠そう、私は就活生(初心者)です。悲しいことに。
これから色々と忙しくなるであろうことが予想されます。
ですので、元から更新頻度の異常に低いこのブログも、より更新が難しくなるでしょう。というか、なってなかったら叱ってください(笑)

それで、お詫びというわけではありませんが、この間書いた短編を載せておこうと思います。
部活の友人が立てた「掌編小説企画」というものに提出した短編です。タイトルは「」。
丁度サリンジャーの小説を読み返した直後だったので、サリンジャー(というよりも野崎孝さん)の文体を目指したらこうなりました。

内容は、まあ簡単に言ってしまえば、壁に頭を打ちつけるのが癖になってしまった男の子の物語、です。

それでは、いつもどおり、通常ブログ画面の方は「追記」から、それ以外の方はこのままスクロールしてお読みください。


 私は――という書き出しは巷に溢れているし、どうしてもそうでなくてはいけないという決めごとがある訳でもないので、私はこの紙面において語る時、そこで取り上げられる主要人物のことを「彼」と呼ぶことにしよう(何故と聞かれても困る。そこに取り立てて理由などはないからだ。時として人は無意味なこと、もしくは無意味に見えるようなことを極度に嫌うことがあるが、そうした感情の槍は、しばらくの間しまっておいていただきたい)。無論、まごう事なき神である我が読者においては、そのような修飾など、意に介す必要すら感じない程の些事に過ぎまい。私はそれを知っているし(何を隠そう、私もかつては一人の無名の読者であったのだ)、こういう無駄話をしている語り手に対して大概の読者が抱くであろう感情についても、熟知していると言って差し支えないのである。
 しかし大方の語り手がそうであるように、語り手は語り手らしく陰を潜め、まるで存在しないかのような素振りで、静かに語るべきなのであろう。私の事は、(一時的にせよ恒久的にせよ)忘れてくださって結構だ。私は、「彼」について話そうと思う。

 彼は(そして私は)、幼かった頃の一時期、壁という壁に一度は頭をぶつけてみないと気のすまない子供であった。ぶつけるとは言っても、血が出るほどぶつけるのではない。ただ、軽く、こつんと当てる程度の話だ。彼のその一見すると奇妙な癖は、実は(というのは、彼は未だその理由を人に話したことがないからである)、一つの信念から生まれたものだった。その信念について語りたいとは思うのだが、何分それを語っても読者の理解を得られるかどうか、甚だ疑わしい。子供の信念というものは、何においてもそうではあるけれど、こうした場合においても、その根拠ははっきりとしないのである。彼をよく知る私から見ても、彼がどうしてそのような行動を何の苦痛も感じずに五年もの間続行し続けたのか、はっきりとした根拠を探ることは難しそうである。以上の理由から、私は、彼の信念について説明を試みることは避けて、遠回りに、外堀から少しずつ、中心を目指していこうと思う。
 詳しくなりすぎない程度に彼の来歴を説明すると、彼は、三歳のときに水疱瘡にかかり、六歳の時に右目の視力が少し悪いということがはっきりした、というような子供である。それだけでは足りないという描写飢餓難民のためにもう少しだけ付け加えるとするならば、彼は典型的日本人の第二子らしい髪型、体系を具えた、それはもう典型的な日本人の第二子であった。髪の毛は無論黒、しかし陽の当たり加減によって茶色が見え隠れするような色で、髪と同じ色の瞳は、大抵いつも、丸く見開かれていた。それは何かを見るためというよりも、むしろ目に見えるものではない何かを探しているかのような開き方だった。
 これだけの彼に関するスケッチを終わらせておいて、その年の秋における彼の行動を逐一追っていくことにする。その年の秋、というのは、稀に見る寒波が日本列島を襲った年のことである。既に北の地方では冬の訪れが報道されていたが、彼の住む地域ではまだ、木々が色づき始めた程度だった。彼はその日家にいたが、いつも容赦ない言葉を投げかけてくる兄に閉口して、兄には背を向け、壁の方に向かって膝を抱えて座っていた。床に、である。床はひやりと冷たかったが、彼にとっては居心地の良い条件が整っていたのだ、と言っておこう。彼は兄が口から発する音を背中で感じ取りながら、意識を壁に集中させていた。忍耐強い彼は、壁に走る無数の染みや陰影を細かく目で追った。遊び道具を取りに行くという行動は、頭に浮かびこそすれ、兄がいる間は実行に移せそうになかった。彼は忍耐強くはあったが、兄に反抗できるほど力があるわけではなかったのである。
 彼は、壁を見続けているうちに、抗いがたい衝動に駆られた。それはとても私の口からは言えない衝動であったし、彼にとってもおおっぴらには出来ないような、言うなれば犯罪的な衝動であった。その衝動を抑えるために、彼はもっとも手軽に行うことの出来た懲罰を、自らに課すことにした。ゆっくりと立ち上がって、壁に自分の頭を打ちつけたのである。
 これが、彼が壁に頭をぶつけた最初だ。彼は数度頭を壁に打ちつけ、ほっと一息ついた。その最中、彼の兄は、信じがたい光景を目の当たりにした人に見られる、一種滑稽な表情で固まったまま、彼の行為を見守っていた。兄は元々自分の弟のことを『変なやつ』と呼んでいたが、急に自分の頭を壁に打ち付けだすほど『変なやつ』だったとは思わなかったのだろう。かくしてその『変なやつ』が一息ついて何処かへ歩き去ろうとした時に、兄は彼のことを何と言って呼び止めたのか。それを覚えている者は、恐らくこの世にもう存在していまい。しかし、ともかくその呼び止め方が、彼の小さな心に深い溝を刻み込んだのは間違いない。彼は呼び止められて足を止めはしたが、またそのまま壁の方に向き直って、頭を打ちつけ始めた。今度はさっきよりも勢いが良く、ごんごんという音が兄のいる場所にも届くほどだった。兄はぎょっとして、ともかく彼を止めようとした。彼の傍へ近付いた兄の手が、彼の肩に触れたとき、彼は急に床に倒れてしまった。気絶したのである。
 こうして彼は、壁を見るとつい頭をぶつけずにはいられないという癖を獲得した。初めのうちは兄と一緒にいる時限定の行為だったが、やがて、何処に行ってもまず、そこの壁の、『頭の打ちつけやすさ』を調べるようになり、それが習慣と化してしまった。兄は勿論親たちも彼のその癖を何とか止めさせようとしたが、全く治ることがなかった。それが治まったのは、彼の兄が不意に姿を消した、ある暑い夏のことである。
 それは、兄が十八歳、彼は十三歳になろうという夏だった。蒸し暑い晩に、彼の兄はふらりと家を出て、そのまま行方不明になったのである。元々素行の悪かった兄のこと、両親も彼もほとんど気にせず一ヶ月ほどが過ぎた。しかし、どれだけ待っても兄は帰ってこなかった。電話や手紙、メールの一つも来ない。最終的には警察に届出までしたが、兄の所在は杳として知れなかった。
 ここで一つ、彼の名誉のために言っておきたいことがある。それは、兄の所在に関して、彼は一切の関与もしていないということだ。例え彼の兄が今何処でどのように風化しているとしても、そのことに関して彼には何の責任もない。むしろ、彼は兄がいなくなり、壁に頭を打ちつける癖が治ってからというもの、兄に対して膨らみ続ける愛情に戸惑ってすらいるのである。

 以上のような経緯を経て、彼は今壁に寄りかかっている。兄が行方不明になってから、既に一〇年は経過しているであろう。万能の読者諸氏からすれば、彼が壁に頭を打ち付けなくなった理由は判然としているのであろうが、しかし、あなた方が考えた理由が本当に的を射ているのかどうか、私には判断のしようもない。ただ分かっているのは、壁に寄りかかっている彼が、心の底から満足しているということだけである。彼の心はいまや、海のように広がり、波紋の一つも見せない。
 今はそれだけで十分なのである。
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Date:2011/12/01
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UserTag: 短編小説  創作  *  就職活動 
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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