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□ 創作小説 □

今まで書いてきたもの4【金魚草子(二)】

こんばんは。
今日は、久しぶりに今まで書いてきたもの紹介をしたいと思います。以前に紹介させていただいた「金魚草子」ですが、これには続編がありました。三話構成です。「金魚草子」、「金魚草子(二)」、「金魚草子(三)」となります。
それで今回は(二)を紹介しようと思ったのですが、以前は「金魚草子」の本文をアップすることをしていなかったので、(二)と一緒に上げておこうと思います。一応、登場人物につながりがあるので。

登場人物は、前回に登場した小学生の男の子・津々良(つづら)の担任教師、大場数彦とその細君です。
前回は津々良とその兄の会話主体で「空を飛ぶ金魚」について書きましたが、今回は大場にとっての「空を飛ぶ金魚」についての話です。

ノベリストに上げたとき、嬉しいことに感想を頂いたのですが、『何故金魚が空を飛ぶのか』についてももっと掘り下げて欲しかった、とありました。確かにそうすべきだったのかもしれませんが、一旦それをイメージしてしまったため、容易に変更したり設定を追加することが出来ず、二作目だというのに津々良自体については何も触れずに終わってしまいました……。感想を下さった方には申し訳ありません、とお詫びしておきます。

それでは、通常ブログ画面の方は追記から、それ以外の方はこのまま画面をスクロールして、「金魚草子」と「金魚草子(二)」を続けてお読みください。↓

金魚草子

「ほら見て、お兄ちゃん。金魚が空を飛んでいるよ」
 弟の津々良(つづら)が、麦藁帽子を押さえて、空を見上げる。
「どれどれ?」
 津々良が指差した先に目をやるが、当然のことながら、そこには金魚なんて居ない。
「ねっ? 三匹、仲良さそうに、飛んでるよ」
 津々良は、俺を見上げ、期待をこめた眼差しで笑う。俺も肯いて、笑いを返す。
「どうする? つづら」
『どうする』、というのは、次はどの方向へ車椅子を動かそうかという意味だ。津々良はまだ小さく、彼の乗る車椅子を上手く操作することができない。先天的な神経の病気で、津々良は生まれてから今まで、自分の足で地に立ったことがない。普段は母さんが車椅子を押しているのだが、今は俺の高校が夏休みということもあって、俺が公園の中を押しているのだ。
「じゃあ、あの金魚さんを追いかけよう!」
 津々良は、子供らしい無邪気さで宙に目を向ける。
「よし来た」
 俺は言って、宙ではなく、津々良の視線を追いかける。津々良の目は、彼の世界を泳ぐ金魚を捉えているのに違いないから、俺はそれに沿って、車椅子を押していく。
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん、何だ?」
 公園の、薔薇の植え込みの角を曲がる時、津々良が不意に落ち着いた声を出した。そういう声になるときは、いつも津々良は俺に悩み事を話す。でも、子供の悩み事なんていつもそうたいしたことではないから、俺は今も気軽な気持ちで聞き返し、車椅子を止めた。津々良の正面に回って、目線を合わせるためにしゃがみこむ。
 津々良は、案の定灰色の瞳を曇らせて、もじもじと麦藁帽子の淵を指でいじっていた。
「何だよつづら、兄ちゃんになんでも話してみろよ」
 俺は麦藁帽子の上から津々良の頭をぽんぽんと叩く。津々良は、せみの鳴き声が一瞬鳴きやむまでの間ためらっていたが、やがて口を開いた。
「ねえ、空に金魚は飛ばない、って、本当?」
「――――」
 俺は、言葉を失った。口は笑いの形で固まってしまって、次に出すべき否定の言葉を咽喉もとで止めている。
「そんなことを言ったのは、どこのどいつだよ?」
 俺は、声が震えないように気をつけて、そう言った。でも、声の代わりに唇が小さく震えてしまう。津々良の世界では、金魚は空を飛ぶ。否定したことなんて、ただの一度もない。だから、津々良は津々良のままでいられるのに。津々良が夜中に食器たちのパーティーを目撃したと言った時も、時計が逆さに回るのを知っているか、と尋ねた時も、俺や母さんは、一度だってそれを笑い飛ばしたことはない。
「金魚が空を飛ばない、なんてわけ、ないじゃないか。現に、さっきだって飛んでたろ」
「うん……」
 津々良は灰色の瞳を、自分の膝に向け、肩を落としている。
「さっきだって飛んでた、俺だって見た。兄ちゃんは嘘をつかないよ」
「うん……」
 いつもなら、俺の保証ですぐに元気になるのに。
 津々良は、まだ視線を上げない。
 どうしたのだろう。
「あのね、学校で、先生が言ったの」
「何て?」
「『金魚が空を飛ぶなんて馬鹿げたことを言うな』、って」
「…………」
 大場先生だ。
 津々良のクラスの担任で、まだ若いのに物怖じしない、という評判の主。母さんがPTAの集まりから戻ってきた時、そう口にしていたのを覚えている。しかし、母さん本人は、どうにもがさつな人のようだった、と漏らしていた。その、大場先生が、津々良の世界に土足で踏み入ったのか。
 俺は、大場先生の、まだ見ぬ姿を心の中で思い浮かべてみる。きっといかつくて、がっしりしていて、生徒のことをただのうるさいガキだとでも思っているような教師なのに違いない。
「そうか、そんなことを言ったの」
「うん」
「そんなことを言うような先生は、放っとけばいいんだ。つづらは何も馬鹿げたことなんて言ってないよ。一年生の時の、香苗先生はそんなこと言わなかっただろう」
「うん。……うん、香苗先生は、そんなこと言わなかった。僕の絵も、変だなんて言わなかった」
 津々良の表情が、ようやく明るさを取り戻した。俺はほっとして、微笑んでみせる。
「そうだろ。つづらは香苗先生のこと、好きだったもんな。大場先生は、つづらのことを知ろうとしていないだけだ。だから、そんなに落ち込むなよ」
「うん」
 津々良は肯いて、ようやくにっこりと笑った。
 儚い、夏の間だけ咲き誇る小さな花のような、笑顔だった。


金魚草子(二)

「何が、『金魚が空を飛んでいる』、だ……ばかばかしい」
 大場数彦は舌打ちをし、トイレの個室からのっそりと出てきた。年齢は三十台前半、髪の毛はしっかり整えてあるのに、服装はよれたジャージに使い古されたサンダルといういでたち。彼はよろよろと手を洗い、ついでに顔も洗った。少しさっぱりした彼は、それでもなお不機嫌そうに鏡を見遣った。
「大体、どうして子供ってのは夢ばっかり見られるんだろう」
 呟いてから、彼は首を振った。
 そういう疑問のほうこそ、よっぽどばかばかしい気がしたのだ。夢を見るのは子供の特権だ、大人が羨ましがることではない――。
「あれ、大場先生。何一人でぶつぶつ言ってるんです」
 同学年の教師が、入ってくるなりそんなことを言う。大場は途端に爽やかな(と彼自身は信じてやまない)笑顔を浮かべ、取り出したハンカチで手を拭いた。
「別に何も言ってませんよ。――聞き違いじゃありませんか」
「そうですかね」
 大場は適当に切り上げて、さっさとその場を立ち去った。

『ほら先生、あそこにも――』
 思い出しただけで、大場は眉をしかめる。無邪気な子供の空想に、どうして自分はああも邪険な反応を返してしまったのか。金魚が空を飛ぶ、そのくらいの空想なら自分だってしたこともあったかもしれない。なのに、どうしてあんな言葉を放ってしまったのだろう。
 大場は、くたびれたスニーカーに履き替え、教師用玄関から表へ出た。もうすっかり空は赤く、夏らしい虫の声が聞こえ始めていた。彼はしばし呆然と宙に目を向けていたが、やがて風が頬を撫でていくと我に返った。そして、そそくさと足早に歩き出した。
 グラウンドから聞こえてくる子供達の笑い声を聞くのでさえ、今の彼にとっては辛かった。耳を塞ぎたい気持ちを抑えながら、なるべく早く学校から遠ざかろうとする。そういう彼の耳に、どこかから飛び込んできた言葉があった。
「お父さんなんて、大嫌いだ」
 生徒の誰かが、何かの話の弾みで口にしたのだろう。しかし、大場の頭の中にはその一言が反響した。もとの言葉が何だったか分からなくなるほどに、何度も何度も反響した。
『お父さんなんて、大嫌い!』
 大場は一瞬身をすくませて目を大きく開いた。そして、脱兎のごとく駆け出した。

「ただいま」
 力ない声とともに、彼は帰宅した。出迎えた細君は、ほっそりとした顔に憂いをたたえて、彼を出迎えた。
「おかえりなさい。……どうかしたの、元気がないみたい」
「……なんでもないさ」
 持っていたバッグを彼女に預け、大場は洗面所まで歩き、手を水に浸しながら、ぼんやりと鏡を覗き込んだ。そこには、ひどく憔悴して、疲れきった男の顔があるばかりだ。そうしてから彼は、おぼつかない足取りで居間へ向かった。テーブルに向かって座っていた細君が顔を上げ、そして驚いたような顔をして大場を見た。
 彼は、泣いていた。
「どうしたの、……」
 立ち上がった細君に、なかばもたれかかるようにして、大場はすがりついた。
「なあ、美理(みり)は、俺のこと、嫌いだったのかな。俺のこと、本当に嫌いだったのかな。俺、父親としてちゃんとやれてたのかな……」
「あなた……」
 細君は、窓際に置かれた少女の写真と、その手前の位牌を見つめた。少女は、こちらを向いて微笑んでいる。その手の中には、父親の似顔絵を描いたらしい画用紙が収まっている。
「美理が、金魚の絵を描いたことがあっただろ、ほら、あの空を飛んでるやつさ――。俺、あれを見てなんて言ったか覚えてるか?」
「金魚は空なんか飛ばない、って言ったんだったわね、確か」
 細君は、彼をいたわるような口調で答える。大場は、身を震わせた。
「そうなんだ、そうなんだ……」
 彼は、細君の肩に涙を落としながら続ける。
「お父さんなんて、大嫌いだって、そう美理は言ったんだ……」
 細君は、優しく彼の背をさすった。子供でもあやすように、彼女は歌うような調子で言う。
「大丈夫よ、大丈夫。あなたは、とっても父親らしかったわよ。だから、大丈夫」
「あの時、言ってやればよかったんだ。認めてやればよかったんだ。金魚が空を飛んだって、何もおかしいことなんてないって、……言ってやればよかったんだ……」
 細君は、泣きじゃくる夫を、ただ強く抱きしめた。
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Date:2011/04/18
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UserTag: 創作  短編小説  ノベリスト  *  金魚  兄弟  教師  夫婦 
Thema:オリジナル小説
Janre:小説・文学

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